紅絹(もみ)と漆器

 

漆器

 

 

                    紅絹(もみ)と漆器

 

 

 今日は二十日正月(はつかしょうがつ)で、お正月行事の最終日であり、お祝い事の納めとして物忌みの日でもあった。魚の頭や豆や正月の残り物を調理して食べるところから、骨正月・頭正月などと呼ばれていて、今日をもってすべての正月行事が終わる節目の日でもある。私は正月明けの仕事が超多忙につき、実に今日も仕事で一日明け暮れてしまった。せめて暮れの始めに出しておいた漆器を、心を籠めて片付けることにし、本日も京都の妻のもとに行けずじまいである。普段愛着のある方々のBLOG散歩もままならなかったが、後片付けをしながら明日からの仕事に備え、私の心の滋養である皆様のBLOG散歩を心置きなく今宵はしたいものである。

 漆器は瀬戸物のように水につけておいてから洗ってはいけない。漆そのものはいいのだが、その下地塗りに水が浸透することを断じて避けなければならない。いい漆器ほど何十回も漆を使って上塗りし重ね塗りにされるために、中まで水を通す心配は殆どないが、それほどいい漆器が多く出回っているように思われない。洗う時はぬるま湯で柔らかいスポンジかふきんを使う。油物を入れた時は止むを得ず中性洗剤を使うが、ぬるま湯にほんの少し洗剤を入れたぐらいにし、スポンジでいきなり原液を使用することは絶対に避けたい。何故かと言えば漆は生きているからである。

 その後のりけのない乾いたふきんで二度ぶきし水分をよく取るのがコツで、しまう時は半日ぐらい風通しの良い日陰に並べて湿気を充分飛ばすことが大切である。しまう場所も直射日光があたるところや冷暖房器具が近くにある場合は絶対に置かないこと、乾燥し過ぎてひび割れを起こす心配があるからである。尚漆器の艶を保つためには、二度ぶきした後、更に紅絹(もみ=着物の裏地に使う紅色をした絹の布)で、器を包み込むようにしてふきあげると、けばも取れ、指紋も消え、漆独特の美しい輝きが保たれる。

 ところで紅絹(もみ=紅色よりやや恥じらいのある渋めの紅色)で思い出したが、市川団十郎の歌舞伎十八番の中にある「助六由縁江戸櫻」で、助六が黒羽二重で裏地が紅絹(もみ)色、ふんどしが紅のド派手な井出達で、蛇の目傘を片手に颯爽と花道を歩いて出て来る。その上助六は紫色の病鉢巻をしているのも凄く格好いい。病鉢巻の色彩はムラサキ草からなり、解熱や解毒の生薬として信じられていたので、劇映画などでは病の床についた殿様をよく見掛けられたことであろう。その本当の病鉢巻は左側にするが、助六の病鉢巻は右側になっていて、当時、健康で男っぷりがよく喧嘩に強く、「股ぁくぐぅれぇ~~~」と大見得を切るスーパーヒーローに、花魁や町人たちがやんやの喝采を浴びせかけた男の象徴として、一般にも流行ったらしい。江戸で採れたムラサキグサから取った色彩の由来から、あのムラサキはエドムラサキと言われているが、紅絹(もみ)はあの伊達男の着物の裏地に鮮やかに使われて、そうして京の町の芸妓さん達にも多く紅絹が使われている。着物の裏地に、裾廻し(すそまわし)の蹴出し(けだし)からチラリと見える紅絹裏だったり、歩いている時に裾捌き(すそさばき)から一瞬垣間見える紅絹裏の色香には、いつもどきっとして品のいい色香が感じられる。今では遠い昔日の色香になったのであろうか。

 

      助六 『助六由縁江戸櫻』 江戸の粋 紅絹色 紅花で染め上げた紅絹

 

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紅絹(もみ)と漆器 への8件のフィードバック

  1. (Kazane) より:

    硯水亭さん、お久しぶりです。ここのところ、寒い日が続いていますね。硯水亭さんにしては珍しく、ブログの更新がされていなかったので、もしかしたら、忙しすぎてまた体調を崩されてしまったのかしら…と、心配していました。お仕事が忙しかったのですね。重要な仕事を任されているのですから、大変ですよね。来週末は、奥様に会えるといいですね♪ 今夜から雪になるのでしょうか…。豪雪地帯にお住まいの方には申し訳ないと思いつつ、たまの雪には、ちょっとワクワクしてしまう私です(^^) 

  2. 文殊 より:

           風音さま
     
     お久し振りです。済みません、ご無沙汰を致しまして!京都から帰って直ぐ超過密スケジュールでした。今日も仕事で、明朝の雪のことを思うと、おちおち寝ていられないのです。当社は全社員が朝5時まで集合し、各ビルの駐車場の雪かきをしなければならないからです。それが数が多いものですから大変なんです。他の貸しビル業の方々はされない方が多いのですが、入居者のご不便になってはならないと亡き主人の断固たる決め事でした。
     
     今夜の空を仰ぎ見ましたら、パラパラと氷雨のような雨が降って参りました。足のつま先がもっと冷える時間になると、雪に変わるかも知れませんね。そうすると出動命令が下されます。少ないといいのですが、大量の雪になると、大型トラックをチャーターしたり、捨て場の河川敷の交渉をしたり大騒ぎになります。貸しビル業を主な本業とする会社の宿命でしょう。
     
     雪が降ったら、風音さんは早速写真機を持ってお出掛けでしょうね。素敵な写真を見せてくださいね。今週は行けそうにありませんが、又近いうちに妻のもとに帰りたいと思っています。今夜もおいで戴き、有難う御座いました!
     

  3. 道草 より:

    「二十日正月目が覚めた」なんて言ってたように思いますが、田舎の正月に鰤などのご馳走を食べるはずもなく、「骨正月」を祝った記憶はありません。黴の生えた鏡餅を砕いて水に漬け、それでも完全に取れずに黴臭い餅の雑煮を食べました。近所の家では団子を作って食べ「団子正月」と称していたようにも思います。そう云えば、友人の嫁いだお姉さんが小正月に里帰りして、二十日にはまた名残惜しそうに婚家へ帰って行ったとも聞きました。男正月女正月奴正月ですか。それぞれの謂れのある古式が段々と廃れていくようです。硯水亭Ⅱさんのブログで得難い知識を再修得させて戴き感謝です。「正月も二十日に成りて雑煮かな」服部嵐雪。

  4. ただ今カフェで読書中 より:

    こんにちは。
    漆器の片付けのこと、拝読しながら手伝ったことのあるその手仕事を思い出しました。 我家では女性何人かが並び、順番にふいて行き、最後は習字の練習紙のような和紙でくるんで桐箱にしまっていました。お行儀の悪い私はいつも叱られっぱなしでしたが(笑)
    雪は降りそうでなかなか降りませんが、白く積もった雪景色の朝を迎えたなら、正月1日でなくても、大伴家持の
     
    新しき年の始めの初雪の今日降る雪のいや重け吉事
     
    の歌のように、よきことが降り積みますように、と願いたいと思います。
     
     

  5. 文殊 より:

            道草先生
     
     二十日正月は明治時代頃までは正確にやられていたようです。残念かな、今では繭玉の行事が残されているだけでしょうか。祭りが途絶え、淋しくなった昨今、実に僅かに寒中火祭りに、その足跡が見られます。昨日奥州平泉の毛越寺では、裸の男性中心に火祭りが行われました。お正月さまに対して最後の災厄除けを願うご神事でした。二十日火祭りです。最近祭りが結構復興されているのですが、この大寒の時分に、寒中水泳とか寒中海水神輿とか、各地で多くのお祭りが散見されますが、これは皆二十日正月の意味だったのです。年中行事の中で最も長い行事であるお正月さまの行事はとても大事にされて参りました。その最後ですから、ある種の神への鎮魂の意味があったのでしょうか。
     先生がおっしゃる通り古式の行事は次第に廃れて行きます。どんな意味があるのかも分からなくなっているような現状です。でもだからこそ古式の意味があるのではないかと、各地で精力的に復興の兆しがあるのは、とっても頼もしいことであります。日本は世界一素敵な文化を有している国です。海外生活が永かった分だけ、それがよく分かって参ります。現代では死に掛けた行事を再復興することによって、まだまだ日本の立派な独自性は失われていない上、豊かさを実感する瞬間です。今日は二十一日、初大師の日です。お大師様のご遺徳と今年も又旧年中に変わらぬご慈悲を戴きたいとの願いの日でしょう。床の間に飾る結び柳は旧年から新年に掛けて、運気の良さを続いて行けますようにとの願いです。美しい日本、今後の世代に残して行くのは私たちに他ならないのでしょう。話題にもならない行事に書き込みをして下さって、今日も本当に有難う御座いました!
     

  6. 文殊 より:

          Hayakawaさま
     
     貴方さまもお手伝いをされたよし、とても感動します。伝統行事に、関わりをなされないとつい先入観で思い至ったことを恥じています。当家では、実家には古い漆器も多いのですが、私の独り住まいノマンションにはそう多くはありません。それでも各地の漆塗りの食器が揃えてあります。最も多いのは椀ものでしょう。少々多くいらっしゃって戴いても対応出来る分が御座います。漆塗りは大好きでして、それを重ね塗りされた作家の心情を思う時、矢鱈に粗末に使えなくなるのです。作家の心境がそのまま伝わって参ります。Hayakawaさまがご幼少の砌、そうしてお手伝いをなされたのは後々何かの発想のいい契機になるのではなかろうかと思われてなりませぬ。そこにご両親さまの愛情すら感じてしまいます。今回私はたった独りで、正月に使われることもなかった漆器を片付けたのでした。これで漸くお正月さまとのお別れです。愈々頑張らなければなりませんね。
     
     いつ降るとも分からない雪に、このところ毎日一喜一憂をしているのですが、こんな状態はしばらく続くかも知れませんね。大伴家持の歌を嬉しく拝読致しました。心からなる貴女さまのお優しい心根を、心から有難く頂戴申し上げます。今夜も本当に有難う御座いました!
     

  7. 野の花 より:

    このところ寒い日が続いていますが 木々たちの蕾が枯れ枝の先に沢山ついているのをみると  春を想わずにいられませんね。私も漆器は大好きで 友人の鎌倉彫りの作家さんのものは 日常使いにしています。何回も何回も重ねた漆塗りは思いのほか丈夫で それこそ丁寧にあつかうと長持ちしますね。瀬戸物より手にほっくらし暖かく軽いですし 割れる事はありませんので お皿や椀物 お盆やスプーン代わりと使って重宝しています。いがいと 手の不自由な方や お年寄りには扱いが良いかもと思っています。伝統的なこれらの器をもっと暮らしの中で 使う人が増えて欲しいと願っているものです。
    職人さんたちが 食べていけるように・・・。腕のいい職人さんが年々少なくなっている現状ですもの。紅絹 いいお色ですね。はっとします。助六の粋なことこちらに来ると 日本の持つ格調高い文化から 鄙びた田舎の風習まで それこそ日本のこころを学ばせていただけて
    ありがたいと想っています。
    お忙しくていらっしゃいますね。寒さ益々の中 どうぞ ご自愛のほどを・・・。

  8. 文殊 より:

           野の花さま
     
     野の花さまも漆器をお好きでいらっしゃって、とても嬉しいです。もともと中国原産かと思いきや、何と何と日本の縄文遺跡(鳥浜遺跡)から漆器が出土したとか、そしたら6000年前になるお話で凄い歴史ですね。しかも欧米では磁器はChinaと表現されているのに対し、漆器はJapanと堂々と言われているのですから驚きです。日本には単なる漆器だけではなく、漆器に様々な工夫をされた漆器が多く、それだけ日本にはとても高度な技術があったという証拠なのでしょう。代表例として螺鈿・沈金・蒔絵・吹き漆などでしょうか。驚くほどの精巧な漆器もあるのですから、大いに自慢していいものなのでしょうね。神奈川には有名な芝山漆器がありますし、無論鎌倉彫もそうでしょう。派手な漆器が欲しい時は京漆器。地方においても能代春慶や津軽漆器、輪島塗り、飛騨春慶、越前漆器など、更に沖縄にも琉球漆器があります。その工程は約40以上、一つ一つ職人さんの思いが籠もっているものですね。但し下地塗りなど、廉価なものの中に、オヤッと思うものもあります。工程が少ないのは要注意ですね。出来るだけ銘のある漆器が信用出来ていいなぁと思っています。確かにお年寄りには温かみがあって、比較的軽くて、最高ではないでしょうか。おっしゃる通りだと思っています。
     
     生き物である漆器を、使用している方が大切に大事に扱えば、どんなに永く持つのでしょう。いい漆器は子々孫々まで伝えられるような気が致します。地方に出る度に、そこに漆器があれば、殆ど夢中になってしまいます。いとおしく器を使いたいと思うばかりです。柄や文様を見て、盛る料理を想像し、どんなに楽しい瞬間でしょうか。まるで夢の中にいるように思うことが多いです。
     
     紅花から紅を取り出すのに、先ず紅花が紅餅になっています。それを水に溶かして、染料とするのですが、最初から殆ど紅は生まれません。最初は淡い黄色のような肌色です。それから何度も廻しながら染めて行くのですが、徐々に紅色に染まって行き、本当の紅色になるには相当な手間と時間が掛かります。水上勉さんの『紅花物語』で、雪の中を紅花が入った籠を峠道で落とす場面があり、雪が真っ赤に染まったとありますが、それは全くの虚構です。紅花は殆ど黄色く、紅餅にしてから、漸く紅色になるのです。花だけの場合黄色いですから、雪の中に落としても真っ赤に染まることはないのです。紅花を酸化させて始めて紅として発酵するのです。紅花を採取する時間帯があるのも面白いですね。朝露があるうち、朝の4時を少々廻った時間帯のたった一時間だけ、あのトゲが痛くない時間帯があるのです。その時にさぁ~~っと行って採取するのですが、面白いでしょう!?従って染料の工程で、紅色と紅絹色が違うのです。紅絹色こそ、紅より割りと廉価に作れるのです。色彩もやや地味めで、紅と並べて比べて見ると、一目瞭然です。殆ど着物の裏地に使われるのですが、それでも高級な裏地で、紅絹裏(もみうら)と呼ばれています。助六は紅はふんどしに、紅絹は裏地に使われるのが慣わしです。これも粋でいいですねぇ。エドムラサキの病鉢巻(やまいはちまき)も素敵ですね。初春に助六なんか最高の出し物でしょう。
     
     本当に寒いですね。野の花さまも、ご自分をいとわれて、日々を大切にお過ごし下さりませ。お互いに頑晴りましょう!!!
     

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