雨水 ひと雨ごとに春そたつ

     吊るし雛ねこやなぎまんさく

 

 

 

               雨水 ひと雨ごとに春そたつ

 

 

 太陽の黄経が三百三十度になり、緩んだ暖かさに雪や氷が解け出して蒸発し、雨水となって降り注ぐ二十四節気の日を『雨水』という。雨水は草木の発芽を促し、萌芽の階(きざはし)が見えてくることになっているが、まだまだ寒さ厳しいのが実状である。ところがあの寒いはずのパリでは櫻の花が開花したとパリ郊外のヴァンセンヌに在住のMiyokoさんの言。櫻より先に咲くクロッカスの花は既に終わっているのだろうか。アルプス山麓の古狼が、猟師ライネルの一人息子クローカスをさらって自分の娘と結婚させてしまった。悲嘆にくれたライネルの涙が雪の上に零れ、そこから赤、黄、紫の可憐な花が咲き出し、村人はその花を『ライネルの涙』と呼んだという。春を告げるクロッカスに、こんな哀しい伝説があったとは。春を告げるヒヤシンスの花にも伝説がある。ギリシャ神話に出てくる美の神アポロンは美少年ヒアキントスを可愛がっておられた。或る日輪投げをしていると、アポロンが投げた輪が偶々ヒアキントスに当たって血が滴り落ちた。その地に紫色の美しい花があっと言う間に咲き出し、ヒアキントスと名付けられたという。ヒヤシンスの語源である。

 日本の春告げ花は先ず梅花であろう。明日20日から一ヶ月間水戸・偕楽園では梅祭りが開催される。神に奉る梅花としてはこの25日に京都・北野天満宮で梅花祭が行われる。無論梅花の根元や低木の落葉樹の元には福寿草が幾ら寒くても甲斐甲斐しく咲き誇ってくれる。純白のスノードロップも幽かな風に揺れて頑張って咲く。雪割草の可憐な花は強さがあって好きである。まだ雪が残っているところに、雪を割って芽を出し花を咲かせる。まさに雪割草が咲くと冬の終末となる。蕗の薹は枯れ草の中から萌黄色のふっくらした花芽をつける。刻んで味噌汁の具か佃煮にしたり、春の食用としても貴重である。高村光太郎はその苦味を春の清新なる味だと言っていた。緑色の若々しい枝に、美しい黄色の花をつける黄梅も忘れてはならない。梅の名を持つが、梅の種類ではない。モクセイ科の花で、早春、葉に先立って開花する。英名はジャスミンで、別名迎春花と呼ばれている。東大付属小石川植物園に入って直ぐマンサクの花が見える。面白い花で長時間見続けても飽きない花である。猫柳の花は渓流のほとりなどの川沿いに、早春の淡い光を受けて一際輝いて見える。ひな祭りの桃の花を飾る前に、その成長の早いことから豊作を願って猫柳を飾る。田ノ神迎えのご神事『春山詣で』には欠かせない花である。早春の花の中で私は犬ふぐりが大好きである。こんなに愛らしい花に何故こんな可笑しな花の名をつけたのか。どの花にも負けないぐらいのコバルトブルーが目に沁みる。その多くはオオイヌフグリと呼ばれていて、在来の淡紅色の犬ふぐりはめっきり少なくなってしまった。びっしり犬ふぐりの花が咲き誇っているド真ん中で、大空を見上げ寝転ぶ歓びったら堪らない。

          クロッカス1河津櫻豊後梅

 上記写真説明だが、左端がパリのMiyokoさんから送られたクロッカスの花で、真ん中は今週末に、伊豆・河津で満開となる河津櫻である。河津から稲取中心に吊るし雛が可愛らしく吊り下げられ、多くの花見客の目にも鮮やかに留まることであろう。そろそろ段飾りもされる時季であろうか。女の子の清新な成長を願ってお雛様をお祝いしたいものである。右端は私が梅の中で最も愛する豊後梅である。こうして数えたら早春の花も結構ありそうである。そうしてひと雨ごとに、三寒四温を繰り返しながら春に、又一歩と進んで行くのであろう。

 いつも行く銀座の和装屋さんでは既に春爛漫であった。今終末妻に逢う時には春の帯〆でも買ってから京都へ行こうと思う。こいさんとして生まれ、ご両親が甘やかそうとしても、黙々と自分のしたいことだけをし、幼少時分から殆ど甘えることをしなかった妻は、この度お陰様で後期博士課程に進級が決まった。芯の強い子で、生まれながらに華やかさを持っていながら、いつも静かにしているだけだ。どこか早春の花に似ている。密かに甘えるのは私にだけかも。

 

春の帯止め

春の帯〆

 

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雨水 ひと雨ごとに春そたつ への4件のフィードバック

  1. 道草 より:

    ――あゝ、夢のやうにうすく青く薫じてゐる山の美しさ。しかし淡雪の消え易さ。やがてこの雪も消えて、うつすらと霞む前山のむかふに残雪の比良を遙々と眺めやる季節が來るのである。きさらぎ・やよひ――日は晴々と大空を渡る。狐色の冬草の底には既に新しい萌黄の芽が伸支度をはじめる。氣ばやな雲雀はもうおしやべりの舞臺を空に展ばしはじめさへする。けれど――山を越え、野を渡つて吹く風の冷たさ。それは思ひ切れない冬への愛着であると同時に、衿もとに忍び寄る物悲しい春のことぶれででもある。何といふこともなく心をゆさぶる人戀しさ、谿川の音のやうに心を過るものはかなさ。これは季節が點してゆくあえかな情感のラムプであり、また南にひらかれた明るい季節の窓の哀感でもある。ああ、梅ばかうした季節の感情を湛へて咲き出づるのである。美しくも寂しく咲き出づるのである。さういへば北野の梅花祭も程近い。……(中略)……梅は清純・高潔・温雅ともいふべきものを持つてゐる一面、冷徹とさへいひたい底寒さをも持つてゐる。梅の花さける岡邊に家居せばまだ山高みふり來る雪を(人麻呂)山里の窓より北は雪とぢてにほひぞうすき春のうめが枝(光經)ともすれば花にまがひて散る雪に梅が香さむき二月の空(蘆庵)……私は昨日誘はれままに北野に梅をたづねてみた。まだ蕾は固い。固いが内に漲る力はみづみづしい。「まだ春は遠いやうですね。」私はうなづき乍も一方「春はもうそこまで來てゐるのだ。」と寂しいやうな、樂しいやうな気持ちで、しみじみと大空を仰いだことであつた。――(「京都風土記」大塚五朗昭和十七年十月)。
    「雨水」。陽気地上に発し、雪氷解けて雨水となれば也。我が家の鉢植えの白梅が綻び、馥郁と香りを漂わせております。『梅だより』の北野天満宮は「ちらほら咲き」と。片や『雪だより』で広河原が150センチと今冬の新記録を更新。まさに春は行きつ戻りつ。奥様には一足早く春の到来。ご主人の慶びもかくやと、謹んでご祝辞を申し上げます。
     
    「まんさくの花」   丸山 薫
     
    まんさくの花が咲いた と子供達が手折って 持ってくるまんさくの花は淡黄色の粒々した眼にも見分けがたい花だけれど
    まんさくの花が咲いた と子供達が手折って 持ってくるまんさくの花は点々と滴りに似た花としもない花だけれど
    山の風が鳴る疎林の奥から寒々とした日暮れの雪をふんでまんさくの花が咲いた と子供達が手折って 持ってくる
     

  2. 文殊 より:

            道草先生
     
     京都風土記の大塚五朗さんの文章は美しい文章ですねぇ。私には到底書けません。冬から春への心情があふれ、読みながら湧き上がる清新な情感であふれてくるのを感じます。特に京都ほど四季がはっきりしているところはないでしょう。冬の厳しさ、そして真夏のあの蒸し暑さ。程よい春の哀しみの叙情、絢爛たる秋の風情。その合間を縫って様々に交錯する情愛。京都に住んでみて初めて分かるものもありましょう。私には楽しみでならない部分とがさつな関東モノが住めるのかという不安とが綯い交ぜになっています。新宿・紀伊国屋書店の故田辺茂一が京都に自社の支店をどんなに出したかったことでしょうか。果たされぬままに亡くなっておりますが、京都の奥深さを感じないわけには参りません。更に観光だけではなく、常に新しいものの発信基地として値打ちもありましょう。古寺社だけではなく、常に斬新さを求めてやまない京都人の活力には驚くばかりです。
     
     先生のお宅の白梅が綻んだのですね。香り高い花ひとひらを酒器にそっと浮かべて飲む酒は格別でありましょう。それにしても広河原の降雪は凄いものですね。でも雪は毛布の役目をするとかのターシャが言っておりましたから、まなじ温暖な場所で苗を育てるのは考えものかも知れません。益々スキー場に涎の出る思いが致します。今度京都に行った時は何とかして雪の広河原を観てみたいと思いました。オフィスの人が案内してくれるでしょう。おかげさまで妻はひと足早い春となりました。お祝いをしてあげたいと存じております。
     
     丸山薫先生の詩歌はリズムがあってさすがですね。三椏の花は櫻の時季ですからまだまだですが、マンサクの花のもとにはそろそろ花にらの花が薄むらさきの花をつけることでしょう。今夜は寒いので鱈ちりで冷酒を飲むことに致しました。それと葉玉葱の酢味噌和えを作りましたから、それで充分です。伏見の方角へ向かって乾杯致しましょう!今日も有難う御座いました。

  3. Unknown より:

    こんばんは。記事を読ませていただいたら、一足先に春を感じて、心がふんわりしてきました。これから次々と、早春の花たちに出会えると思うと嬉しくなりますね。
     
    この可愛らしい梅が「豊後梅」なのですね!こちらの梅の郷にもあるといいのですが。ぜひ本物を見てみたいです。まんさくのお花は、こちらでもちらほら見かけます。私はいつも錦糸卵みたいだなぁと眺めているのですが変でしょうか(笑)
    今日は丁度こちらの公園の河津桜を見に寄りましたが、やはりまだ蕾です。でも、先週より少し膨らんでいました。いつ咲くか楽しみです。
     
    春の帯〆のお写真も綺麗ですね。奥様にはどの色のを選ばれるのでしょうか・・・赤ちゃんがお生まれになっても、密かに甘えられる硯水亭Ⅱさんがついていらっしゃいますから、ますますご勉学に励まれることでしょうね。ご進級、おめでとうございます。

  4. 文殊 より:

           夕ひばりさま
     
     お晩です。何となく春の気配を感じられる候になって来ましたね。この冬は寒かったです。これが本来かも知れませんけれど。
    今実は道草先生と晩酌中です。離れておりますが、一人身であると色々バーチャルでお相手をさせて頂いております。ちょうど
    春らしいアテも作りましたし、鱈ちりは少々冷めてしまいましたが、冷酒にはぴったんこいいんです。春野菜も一杯入れました。
    今の白菜は実に美味しいですねぇ。ザブザブ食べてしまいました。
     
     そうそう、この梅が豊後梅なんですよ。とても可愛い梅で、夕ひばりさんにはぴったり似合うかも知れません。ゴテゴテした
    八重の梅はどうも苦手です。八重なら櫻ですね。特に一葉や太白が好きです。山櫻や江戸彼岸に早く逢いたいなぁ!クシュン!!
    マンサクの花は確かに錦糸卵のようなものですが、小石川植物園には色んなマンサクがあるんですよ。まんず咲くからマンサクとか。
    シナマンサク・マルバマンサク・ベニマンサクと色々です。この時季同植物園ではギブシ・トサミズキ・ヒュウガミズキ・ダンコウバイ・
    サンシュユ・アブラチャンなんかも咲きますから、都会のド真ん中で最高の場所でしょうね。後楽園の方にも小石川植物園がありますが
    そこは都の管理で狭いお庭です。東大付属小石川植物園は広大で最高です。茗荷谷からも、新しく出来た地下鉄では白山からでも
    行けますから、一度チャンスがあったら是非お勧めしたいですねぇ。
     
     今回選んだ帯〆は萌黄色と利休鼠色です。同じような系統の色ですが、明度に差がありましょうか。妻が持っている帯を想像して
    購入致しました。きっと歓んでくれるでしょう。腹帯締めていても普段と全く変わらず、平常心で暮らしているようです。目立たない裡に
    今度の帯〆をつけて貰いたいのですがねぇ。妻の進級お祝い有難う御座います。これも厳しい試験があるものですから。大変だった
    はずですが、そんなことを億尾にも出しません。有難いことだと感謝しています。今宵おいで頂き有難う御座いました!
     

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