パリのあなたへ そして誰もがゼロだった

  

     パリパリパリ

凱旋門・シテ島のノートルダム大聖堂 ここを一区とし時計回りで渦巻き状に二区三区へと・四区夜のカフェ 

 

 

 

      パリのあなたへ そして誰もがゼロだった

 

 

 現在パリ市内には約2万人の邦人がいる。パリの総人口217万人のひと握りに相違ないが、一部の商社マンを除いては画家・彫塑家・デザイナー・バレリーナ・ミュージシャンなど芸術部門の総数にしては他国に比べて比較的多い方である。皆それぞれが大きな夢を抱いて渡仏している方々だ。確かにパリは刺激的で、芸術的な啓発に満ちて余りある。間違いなく「芸術の都パリ」「花の都パリ」であることは事実である。私の主人も若い時にはそうした甘美な夢を抱いていた。だが結局、仕事の拠点をパリには求めなかった。リヨンに支店を作り、自在な動向をよしとした。カフェ・オレにクロワッサンというイメージのパリとは違って、リヨンでは朝からステーキが出て来るような自由な発想の美食を中心とした金融の街で、どこへ行くにも多彩で便利であったことが大きな理由の一つであったろう。

 フランスはアジアやアフリカに対し永い間植民地政策を取って来た。従って現在その煽りで、世界中からどのような人種の方もやって来て、特にアフリカ系の移民で溢れ、言わば人種の坩堝になっていると言っても過言ではない。一昨年だったか大規模なデモがあったが、あのデモこそ容易に職業につけない移民者による爆発であったのだろうと思う。近年ジャン・ギャバンやジャン・ポール・ベルモンドやエディット・ピアフなどがひょいと横丁から出て来るような、庶民派にとってもってこいの路地裏の良さが失われつつある。移民系の人たちが大手を振って跋扈するようになり、同時にパリっ子たちは勢い保守的になっているに違いない。事実今あらぬ話題で沸騰中のサルコジ大統領は保守主義のドンである。パッサージュと言って、親しみ深かった抜け道のような通りが極端に少なくなっている。お店もこれがパリだと言わんばかりに小綺麗で、あの学生街のカルチェ・ラタン(サン・ジェルマン・デ・プレ地区)だってすっかり綺麗になって整備されている。嘗てフランス映画と言えば、小洒落たエスプリでいっぱいであった。喜劇映画は全世界のリーダー格で全盛の時代も永かったし、ヌーヴェル・ヴァーグだって凄かった。未だにちっとは往時の映画のような雰囲気は垣間見られるものの、ハリウッドに毒されたのかドンパチ映画などが多く閉口するばかりだ。『ポンヌフの恋人』や『アメリ~』は最高だったが、パリ市内を縦横無尽に闊歩してくわえタバコで小洒落た、あのカックいいギャングのような小父様は既にいなくなって久しい。始終ラヂオで流されていたピアフの歌は殆ど流れては来ない。

 ベルト・モリゾだって印象派ただ一人の女流画家であったが、たった150年前にして女性は戸外でキャンバスを立てることを許されなかった。そのずっとずっと前からパリにはサロンの存在があって、シャルダンやフラゴナールだって多くの画家が泣かされて来たものだ。ミレーやコローですら一旦サロンに受け入れられたが、バルビゾン派は徹底して無視されていたではないか。あの印象派の巨匠クロード・モネですら審査機関のサロンから排斥されていたのだから。ゴッホゴーギャンは言わんやおやである。尤も何時の時代だってこうしたサロン的な存在は何処にでもあるのだが、それが現在でもそうした背景がパリのド真ん中に大きくあってでけぇツラァしてたら、話はまったく別であろう。然し今でも隠然としてあるのが事実であり、最早パリは芸術の都に胡坐をかき過ぎた。ルーヴル・オルセー・マルモッタン・オランジェリー・グランパレなど多くの栄えあるパリの美術館での観光展示をいいことにして、新しい芸術の萌芽に極めて乏しい雰囲気に満ち満ちている。何故だろうか、何故そうなんだろうか。私的な考え方ではあるが、多分底辺には依然として隠然たるそうしたサロン風な勢力が数多くあるからだろうと思う。従って未知数の画家たちの発表の場やチャンスは殆ど提供されないでいるのだ。芸術の観光地ではあるが、最早芸術の熱気がほぼ完璧にないのだから、どうしようもない。どこかの公的機関が買い上げるなんてことは奇跡に近い。

 私が好きな画家で絵の汚し屋・偉大なるスーチンは大親友であり最も信頼した同じユダヤ系の画家モディリアーニを早くして失い、失意のどん底で食うものも食わずに貧乏な絵画生活を余儀なくされた。あのアメリカのバーンズ・コレクションのオーナー・バーンズ氏が直接アトリエにやって来て一切合財を買いに来るまでは。ゴッホも耳を切って最期短銃自殺を果たした。ゴッホの売れた絵は三千余枚(10年間の制作期間であった)のうち、たった一枚だけであった。まして弟テオの奥さんが果たした精一杯の努力がなかったら、今日のゴッホはなかっただろう。ゴーギャンにしたって、タヒチから途方もなく遠く離れた絶海の孤島で最期を遂げた。みな生前等しく報いの少ない悲惨な絵画人生であったと言えよう。ポール・セザンヌをキュビズムの師匠として生涯尊敬してやまなかったパブロ・ピカソだって永くパリにいることはなかった。嫌しかし、今さらパリを毛嫌いしたってどうにも始まらないのではないか。パリのどこが悲惨で窮屈で馬鹿げているのかをはっきりとこの目で確かめなければならない。飛躍の逆説をしっかりと確かめなければならない。話は絵画ではないが、恋人ジョルジョ・サンドとショパンのパリでの栄光と挫折を見るがいい。そしてその格闘を避けてはいけない。あなたたちには新しくパワフルな芸術が求められているからだ。さぁまだパリだ、頑張れないことはない。だって多くの先人たちの絵画がちゃんと傍にあるのだから。しっかり眼を見開き、大所高所から物事を見ることだって必要だ。あなたの絵画には寸分もお手伝いは出来ないけれど、あなたの裂帛の気合でなし遂げられるご活躍を心の底から信じている。

 誰だって最初は何もなかったし出来なかった。すべてゼロからのスタートだった。少年時代のモネは風刺漫画を描いてて得意がっていたのを知っているよね。誰にも初めがある。トコトンまでパリで格闘し終え卒業出来たら、それで絶対的にいい証ではないのか。今やニューヨークには全世界から怒涛の洪水のように多くの画学生たちが集まって来る。モンドリアンがふらりとアメリカにやって来て、ニューヨーク市街を俯瞰して描いた抽象画は知ってるかい。初期の頃の抽象絵画だったが、ここでは何もかも自由な別天地なのだ。芸術のエネルギーで爆発でもしそうである。そして天まで届くドリームもあるが、奈落の底だってないわけじゃない。それでもアメリカじゅうからも世界中からもここニューヨークに挙って若者たちが勇気凛々として集まって来ている。最初SOHOで火がついた。でも今やニューヨークのどこからででもアートなのである。グラフィティ・アートの路上アーチスト・バスキアは酷いダウンタウン出身だったが、何て素晴らしい芸術家だったんだろうか!薬物依存で27歳の若さで死なれたがね。ところで現代で最も優れた貢献をしているニューヨーク近代美術館MoMAだって、街中に目の利いた調査員が始終歩き廻っていて、名もない若者の絵を定期的にドシドシ買い上げしてくれている。自分で発表する場だって安くて多くあり、誰もが見に来てくれて、愛に満ちたキツゥ~~イ批評や賛辞の嵐を惜しまない。経済の活性化が後押しでもしているかのように誤解したいぐらいだ。第一パリのサロンのような存在は過去も現在も、多分未来も存在しないだろう。それだけ時代は忙しかったとも言えようか。そんな雰囲気が横溢している街・ニューヨークは、あの何処か陰惨なパリの雰囲気とは全然比較にならないわけなのだ。失意のうちにパリを離れアルルに向かったゴッホの時のように、あなたたちもいずれパリを離れ新しいエネルギーの鉱脈を探しあててやがてそれでやって来るだろう。もう古くなったかも知れないが、ウォーホールもオキーフもポロックもエッシャーも、ホッパーだって皆待っているんじゃないのかい。ピッカピカの超近代的なビルの一室に、ミレーやマネの絵画が似合うかい!だから真新しい芸術を皆が待ち望んでいるんだよ。ゴチック調の時代にはそれなりの絵画が流行って、ロマネスク調の時代にはそれなりの絵画が流行っていた。無論ロココの時代だってそうだった。でもその潮流に乗れなかった異端児の系譜こそが美術の歴史の王道を創り上げて来たのではなかったか。日本画とて例外ではない。あの絶大な権力を誇った狩野一門の手習い帖にテクニックはいいとしても、未来の日本画の命運は握られているだろうか。そして最近の絵画の傾向を観ると、宗教や哲学を乗り越えた超現代的な美とは、紀元前より遥か以前にあった人類の原初的な血肉の単純な美が見出され流行りつつあるのかも知れないね。私にはいまいちわからないけれど、でもこの瞬間の今でも、最も新しい現代絵画の旗手たちがバンバン発掘されているけれど、決死の覚悟のモノ凄い勇気が要るし、甘~~い夢は微塵も一切禁物なのさ。

 最初は誰しもがゼロだった。だからこそひたすら足元から必死こいて挑戦して欲しいと願ってやまない!あなたへ愛を籠めて!

 

      モンドリアンの「NY   ポロックのアート

        モンドリアン「コンポジション」                               ポロック「UNTITLDE」

 

広告
カテゴリー: 藝術 パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中