道成寺鐘供養

   

    能舞台能舞台道成寺・鐘楼の作り物としづこ道成寺

 

 

 

 

                                 道成寺鐘供養

 

 

  本日は和歌山県川辺にある道成寺で行われる鐘供養の日です。今月は殆ど櫻に頭が行っていて、私が大事にしている民間習俗によるお祭りの記事は潅仏会以外まるで出せませんでした。そこでその反省を籠めて四月に行われるお祭りを含めて書かせて頂きたいです。重要なお祭りを幾つかご紹介申し上げますが、四月花爛漫と咲く季節に、最も重要なお祭りは京都・紫野今宮神社境内の疫神社で行われる『やすらい花』でありましょう。本来の名前は鎮花祭(ちんかさい)と呼ばれ、花が開き始め花の精が一斉に飛散する頃、疫病がよく流行ったとされ、花を鎮めなければなりませんでした。これが鎮花祭の所以で、やすらい花とは、踊り歌の一連ごとの末に「やすらへ花やぁ~(花よ散るなぁの意)」という囃子言葉があるために、そう呼ばれておりましたが、他の地方では鎮花祭ときちんと呼ばれているようです。又、同様に鎮花(はなしずめ)としての意味を持つ京都・壬生寺に伝わる壬生狂言は、「壬生さんのカンデンデン」と親しまれ、21日から始まっており29日まで続き、都踊りとともに京都の春の風物誌となっています。カンデンデンは黙劇で、大念仏を修した後に、狂言踊りが30番あり、焙烙割(ほうろくわり)という素焼きの土器を割って厄落としを行ってから、大原女・棒振・湯立・舟弁慶・大江山・道成寺・花盗人など多くの演目が期間中ずっと演じられます。

  更に日本三大山車祭で有名な春の高山祭もあり、春遅い山国を絢爛豪華な12台の山車が鮮やかに市中を彩ります。日光の輪王寺では修験者の古儀式である強飯式が御座います。開運の三天である大黒天・弁財天・毘沙門天と日光三社権現から御供(ごく)を賜る行事であり、国家の天下泰平と民衆の福寿増長を祈られたものです。長浜市では長浜曳山狂言があり、ここでも山車12台が出て、長浜八幡宮の春祭りとして有名で、曳山(=山車)で男の子たちによる子供歌舞伎が可愛く華麗に演じられます。一方島根県美保関の美保神社で執り行われる青柴垣神事(あおふしがきしんじ)という、少々物悲しい行事もあります。祭神の事代主命(ことしろのぬしのみこと)が、勅命を受けて国土を天つ神に国譲りをした後、自ら青柴をめぐらした海にお隠れになられた故事に基づくご神事です。祭当日神殿行事、役付の行列などの後、神がかりになった頭屋(とうや)と呼ばれるご夫婦が、5,60人の供奉者(ぐぶしゃ)たちとともに、四隅に青柴を立て幕で囲った二隻の船に分乗して美保関港海上を渡り、宮灘から上陸致します。上陸した行列は田楽舞と鼓笛の中を進んで行きます。この行事は厳重な頭屋組織で執行され厳重に運営されております。頭屋に選ばれた家では物忌みと潔斎によって厳しい生活を経た後に、お祭りに臨むものであります。華やかさの中に、海の葬送の儀式として哀愁漂う行事になっています。生と死は紙一重なのでしょうか。本来は一月二十五日の法然上人が入滅した日に行われていましたが、東京港区芝増上寺で行われる法然上人御忌会(ほうねんしょうにんぎょきえ)は四月に行われます。無論宗祖のご遺徳を偲び、七日七日間に亘って阿弥陀経を誦する報恩修行が行われるのですが、京都の総本山・知恩院ではお正月に行われますので、皆さんは着飾って集まるところから、衣裳競べ、御忌小袖、弁当はじめなどと言われ、一年の遊山はじめともなり、「生」への生き生きした行事のようです。春の行事はどことなく爽やかで、光に溢れているように思えるのは筆者だけでしょうか。或いは春の景色の所為でしょうか。

 

     奈良・金春能楽堂 道成寺 般若面

 

  処で本日の道成寺鐘供養のことですが、元来の鐘供養とは仏像の開眼供養と同様に、鐘を新しく鋳たときに行う供養です。但し現在では年中鐘が撞かれておりますから、晩春に各寺々でそれぞれが慰労する行事をいっています。但し道成寺ではその上、能や歌舞伎や日本舞踊で有名な「道成寺」ですから特別な行事となっているようです。旅僧の安珍(あんちん)を恋し、清姫が適わぬ恋心と分かって、安珍が鐘に身を隠したのを蛇身になって迫ったという伝説から、特別にその供養が行われているようです。能の「道成寺」は実はその原本にあたるような芸能がありまして、岩手県の早池峰山に残る山伏神楽で、現在は演じられておりませんが、座舞の「鐘巻(かねまき)」が古いように思われます。同じように安珍・清姫伝説を基にしているものです。平安時代に起こった伝説からで、室町時代に成立した能楽はずっと後になるわけですが、山伏神楽はその前には発生しておりました。この山伏神楽の「鐘巻」を含めて、能と歌舞伎と日本舞踊の「道成寺」を比較演劇学として捉え、研究するのも歴史を勉強するのに面白いことかも知れません。

  尚右図にある通り「道成寺」では蛇身になった清姫が後ジテで演じられる折、般若の面をつけて出て参ります。翁の面と同様によく知られた面です。他にこの面が能で使われる曲は『安達原』『葵上』『道成寺』『現在七面』『紅葉狩』などで用いられます。一対の角は極めて鋭く、眼は金具を使っていて、重く垂れた眉肉の下で不気味に鋭い眼光でにらみつけ、口は大きく裂け、上下の牙と歯列があり、鼻は大きく、頤は鋭く、般若面は全体構成が逆三角形で、それらを基調にした堅固なコンポジションは凄いものでしょう。よく観ると、その奥から怒りに満ちた鬼女の面でありながら、どこか深い哀しみを抱えた表情が滲み出て参ります。現代の能面作家の証言では、最も美しい女性を想像しながらでなければ、この面は決して打てないということでした。般若の創作者は鬼の面の上手と言われた「しゃくづる」であるとか、般若坊の作であるとか、異説が紛々として色々とありますが、女が追い詰められ、やり場のない哀しみが極まった時、このような極限の面が出来上がったのでしょう。日本の中世という不可解な時代の産物であったと想像されますし、能面は150種ほどありますが、最も特異な面として光芒を放っています。

  今日は佳き日、妻が来てくれました。連休中ずっと一緒です。生涯妻がこのような表情にただ一度もならぬよう大切に守って行く所存です。

 

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道成寺鐘供養 への6件のフィードバック

  1. 道草 より:

    いつに変わらぬ硯水亭さんの博学。般若の面の謂れを初めて知りました。「外面如菩薩内面如夜叉」との言葉がありますが、香の君は内外面共に完璧なる如菩薩に違いありませぬ。本日は義父の3回忌法要にて、山陰沿線の八木町へ出向きました。山麓にある菩提寺は龍興寺と称し、鐘楼が町の指定文化財になっています。境内では、和尚が丹精込めた数十本の牡丹が艶やかに研を競っておりました。親牡丹は150年もの古株とか。裏山の墓地には山桜が舞い降り、また町の真ん中を流れる大堰川畔には、十年前に義父が植樹した牡丹桜も満開でした。麗らかな春の一日。家内の姉妹ら3家族で故人を偲びながら、逝く春をしみじみと惜しんできたことでした。明日から天気はやや下り坂になるとの予報です。余談ながら、阪神が巨人から2勝を頂戴しました。奥様との週末に優しくなり過ぎた硯水亭さんの、せめてものお情けと感謝です。
    「山の見える庭に牡丹の花を剪る」  田中冬二 十二貫山までは三里ある 雨の後 十二貫山は近くなつて見える    もうすつかり若葉になつた庭で    私は牡丹の花を剪つてゐる    牡丹の花の重たさ  冷たさ    手に附いた花粉のつよい香り    そこに北国の晩春の何かものさびしさが感じられる 庭につづいた川べりの榛の木には翡翠がきてゐる 向うの街道を人力車が走つてゐる そして十二貫山はすぐ近くになつて見える

  2. Unknown より:

    こんにちは♪
    奥様とご一緒に連休を過ごされるとのこと、まさにゴールデン・ウィークですね。
    お身体の回復も一気に進むことでしょう。
     
    一昨年の秋、地元でお能と能面を観る機会に恵まれ、日本の芸能の素晴らしさに圧倒されました。
    般若の面もありましたが、確かに「どこか深い哀しみを抱えた表情」が滲み出ていて見入りました。
    奥様は美しい方ですから般若の面のモデルになられる条件を満たしていますけれども、硯水亭Ⅱさんが大切にお守りになるから、いつも安らかなお顔でいられることでしょうね。
     
    お腹の赤ちゃんは外からでも動くのが分かるようになってきたのでは ?  だんな様が動けない分、奥様が手助けされると、ちょうど良い運動になるかもしれませんね。
    明日からは晴れの天気が続くとの予報、新緑の季節を「3人」で楽しくお過ごしください。
     

  3. 文殊 より:

          道草先生
     
     お墓参りに行かれたのですね。奥様のお里は華やかな春爛漫であったことでしょう。実父に手向けられたお線香に、さぞや奥様は嬉しかったことでしょうね。二人してこうして元気だから安心してねって、ご報告なされたはずです。八木町は今でこそ巨大な南丹市になられましたが、大堰川ぞいに櫻並木があり、春は櫻を中心に野草採りにも絶好な場所で、夏は鮎とかハヤとかウグイとか、川遊びにも事欠かなかったことでありましょう。秋にはマツタケでしょうか。伸び伸びとお育ちになられた奥様が、自然に対し文学的造詣が深い道草先生と相和し、お二人の立派なお嬢様にも恵まれて、お幸せな日々でありましょう。そのことをご報告された故人もまたお幸せな方だとご拝察申し上げます。
     
     八木町は昔から交通の要衝であるばかりではなく、角倉了以が大堰川を更に開発し、嵯峨に通じる塩街道を水路で作ったのも大きなことではなかったでしょうか。やはり鳥羽の存在が大きいのでしょうけれど、古代から多くの古墳があり、桑田郡には国府も築かれたのですから、歴史の重みがあるところですね。さぞや紫雲山も明媚な姿を見せてくれたことでしょう。
     
     阪神が勝ってよかったですね。今の巨人はそれほど好きではありません。代々巨人ファンだから仕方なく見ることがありますが、往年の巨人は自前の選手を徹底的に鍛え上げ、それが巨人魂になっていたはずですが、この寄せ集め軍団にはため息は出ますが、ちっとも感心しないのです。それより道草先生が勝利の美酒を飲まれることの方が嬉しいです。坂本・亀井・矢野といった若手が台頭し、ピッチャーも自前で鍛え上げるまで、寧ろ多摩運動公園の二軍の方に注目しておきましょう。今の巨人を一番見ないのは熱烈な巨人ファンが殆どかも知れません。タイガースが再び日本一を勝ち取ることを祈念しています!
     
     そうそう牡丹の花が盛りだったとは。あの雪の室生寺や長谷寺でも牡丹や石楠花が満開の花時を迎えていることでしょう。素敵な田中冬二さんの詩を有難う御座いました。大堰川にも翡翠が川面の小枝につかまっていたのでしょうか。今日も有難う御座いました!
     
     

  4. 文殊 より:

            夕ひばりさま
     
     今日和♪♪ いいお昼下がりですね。ベランダの椅子に座って、帽子をかぶって二人でお空を観ています。
    雲形がはっきりしないのは、都会のど真ん中だからでしょうか。連休で都内に人が少なくなると、もっと綺麗な空が
    戻って来るのでしょうね。グランマの大型で新しい本を御覧になられてよかったです。最晩年はターシャの家とそう
    遠くない場所に住んでいたのですよ。面白いものですね。城夏子さんも晩年になればなるほど、素敵な言葉が圧倒して
    参ります。あれだけの才気がありながら、21歳で自殺した久坂葉子さんだって、長生きをして欲しかった一人ですが、
    上手に美しく年を重ねることって、実際は若い時から始まっているのでしょうね。最近ダンディな紳士とお洒落な淑女の
    カップルを見ると、惚れ惚れと致します。二人で頑張って、ああなりたいものだと妻と語り合っています。
     
     妻は生活のリズムを変えることを好みません。旅さきでも普通そうです。何時から何時まで本読みといったら、
    是が非でもそうする人です。若い子と付き合うのを好まないのは多分それを容赦してくれないからでしょうか。
    だから僕もつい家内の体内リズムに合わせがちになって来ます。それが実に心地いいのです。
    二人で一緒にお風呂にも入りますが、お風呂の中にいると赤ちゃんは活発に動くようで、手を通して伝わって来ます。
    生命の不思議で、僕にはどうにも理解出来ない不可思議世界です。こうして運良く人間として生まれたのですから、
    せめて大事にしたいものですね。
     
     夕ひばりさまは、きっと「増女」の面が似合うでしょう。若くはないのですが、でも僕は女面の中では最も好きなお面です。
    小面(こおもて)は若過ぎるし、若女は結婚したてなようで、増女は哀しみも歓びも皆知っているような表情が堪らないのです。
    面を下に向けると泣くようなシオリというしぐさになりますが、頤を上に向けると今度は笑っているように見え、お面は実にいいです。
    お面の材料は殆ど木曾檜です。樹が持つ樹油を取り(完全には取りません)するのに10年、更に10年寝かした木を使います。
    適正な樹油は虫食いに強いお面を作ります。更に顔料の色落ちを食い止めます。木は凄いものですね。死んで尚使われる
    のですから。しかも製品になってから、場合によっては数百年も持ってくれるのです。偉大なものですね。
     
     最近妻が能を習い始めたようです。お腹の底から声を発すると運動になるし赤ちゃんの教育にいいからと。
    これから三人で仲良く、皐月晴れの東京を静かに楽しみたいものです。今日も有難う御座いました!
     
     

  5. (Kazane) より:

    硯水亭さん、こんばんは。幸せなひとときを過ごされているようですね。硯水亭さんは、奥様のことをとても大切にされているので、奥様があのような表情になることなど想像も出来ません(^^)着物姿、本当に素敵ですね。自慢の奥様ですよね☆ 今日も、こちらでいろいろ学ばせていただきました。般若の面に感する知識、全く無かったので…。ありがとうございました。 奥様が側にいてくださると、リハビリの辛さも軽減されるでしょうね。良い休日をお過ごしください♪

  6. 文殊 より:

           風音さま
     
     今晩和!二人だけでいる時って結構乙女の地を出しています。この写真は随分前に撮られた写真ですが、
    思わずピースサインですものね。普段は可愛い人なんですよ。やはり若さが見事にありますし、それだけは
    真似の出来ないことですが、 但しどんなに疲れていても勉強は必ずします。努力は才能のうちだって言ってます。
    今夜は嫁菜の御飯を炊きました。米カップ三に対して100グラムの嫁菜を使います。根を綺麗に洗って、やや固めに
    塩茹でしておきます。水に取ってから水気をよく取り絞って、塩大匙三分の二ぐらい混ぜておきます。炊きたての御飯に
    ただそれを混ぜるだけです。嫁菜の風味があって美味しかったですよ。(中延商店会の八百屋さんにパックにして売って
    ましたから、偶々嫁菜でしたが)春菊や菜花など、ちょっとだけ手間を掛けると美味しいですね。独活の酢味噌和えも
    最高に美味しかったです。青紫蘇の葉っぱでもいいかも知れませんね。若布も美味しい季節です。そんな他愛なことをして
    二人で過ごしています。
     
     意外とご存じなかった方が多かったですねぇ。メールにもたくさん反響を戴きました。これからも能や歌舞伎や浄瑠璃のことを
    書かせて戴ければと存じています。そそ処で櫻茶の場合何故結婚式などに出るかですが、二つの花の花梗(かこう)で繋がれて
    いるからでして、両家の末永く縁結びをする意味があるのでしょう。それだけで、多く入れないのがコツかも知れませんね。
     
     リハビリは脚の筋肉をつける作業からしています。マッサージ師にも時々来て戴いております。
    風音さんの写真を観たいものですから、連休中の写真が今から楽しみです。今夜は有難う御座いました!
     

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