神へ御杖代か 太田ノ沢の杜若

 

杜若

大田神社 太田ノ沢の杜若

 

 

 

       神へ御杖代か 太田ノ沢の杜若

 

 

 今月に入って直ぐ上賀茂神社境内で賀茂競馬(かもくらべうま)が行われ、賀茂祭(一般には葵祭として知られる)が始まっている。15日には終日賀茂祭で、斎王代の行列が御所から出て、下鴨神社を経由し、上賀茂神社まで行幸なされる。そんな賑々しい上賀茂社本殿裏に、摂社・大田神社があり、その太田ノ沢では、杜若が早くも満開になったようだ。沢は、約2000平方メートルで、そこに約2万5000株が天然群生しており、国の特別天然記念物に指定されている。閑静な御社で、古来から杜若があった。藤原俊成は、この杜若の大群落が紫一色に染まっているのを見、二心無き恋心に喩えて歌を詠んだ。普段静かな沢の時季に、珍しく多くの人たちが訪れ、紫の幽玄の世界に酔いしれる。貴重なる野生の杜若の群落である。又このお社のご祭神は天鈿女命と猿田彦命、つまり方角の神で清浄な神域である。

        神山や大田の沢のかきつばた ふかきたのみは色に見ゆらむ  藤原俊成

 

 

『葵祭』における 斎王代の御禊 これから祭祀に出る

 

 葵祭のことは度々書かせて戴いているが、葵祭の日陰になって咲く大田神社の杜若の表情はそれほど注目されていない。過去『櫻灯路』でもハナショウブの種類を書かせて戴いている。江戸時代、野生のノショウブが改良され、多くハナショウブの品種を生んだ。そしてに肥後(熊本県)持ち帰られ、そこで豪華な品種の肥後ハナショウブが多く誕生し、今日に至っている。江戸のは堀切菖蒲園で明らかなように、洒落れた品種として成立したが、肥後では更に改良が進み、豪華さが生み出された。更に伊勢の神宮庭内でハナショウブが改良され、花房の長い優雅な花を生み、伊勢系となり、それら三系統のハナショウブが現存している。圧倒的にハナショウブの人気があったわけだが、杜若はアヤメ科の中で最も早く園芸化され、古くは染料として植えられるようになったものの衰退せざるを得なかった。江戸時代から、ハナショウブが華々しく園芸化され、杜若は品種の数も少なく、今や滅亡の危機にある。然しあの古色蒼然たる杜若の色彩は、尾形光琳(この時季、例年根津美術館で光琳の国宝「燕子花<かきつばた>図」屏風が一般公開される)に言わせるまでもなく、実に清けく日本的ないい色彩である。この他アヤメとややこしい品種があるが、広い意味でハナショウブを指すように、群落すると美しい品種である。キショウブは一つのハナショウブの一種と考えてよい。シャガやイチハツもアヤメ類であって、根気よく繊細に観察せねばならない。石川県金沢の兼六園の杜若、愛知県知立市・無量寿寺の杜若、岩手県・毛越寺のハナショウブ、山形県長井市の100万株のハナショウブ、茨城県潮来のハナショウブ、東京・明治神宮の菖蒲園、静岡県・加茂花菖蒲園、伊勢神宮の花菖蒲園、兵庫県・永沢寺のハナショウブ、香川県、栗林公園のハナショウブなどがつとに有名であろう。ムラサキの花の色香は時を忘れじっくりと観たいものである。

 そもそも斎王とは未婚の内親王で、天皇の御杖代(みつえしろ=代理)として、自ら潔斎し、下鴨神社や上賀茂神社に拝礼するものであり、斎院とはこれも天皇の未婚の内親王が当たられた。こちらは伊勢近くに常時住まいし、伊勢神宮にご参拝するもので、鎌倉初期には途絶えてしまった行事である。近年双方とも復刻し行われているが、斎王や斎院が実のことおいでではない明らかであろう。そこで斎王代と命名し、社家のお嬢さまがたが当たられ、現在復刻し行われている。800年近くも途絶えていた祭りなのだが、本来の意味は相当な覚悟が大切にされた行事であった。大田神社の杜若は絶えることなく、古来から楚々として今日まで生き続けている。まるで祭祀が行われなかった時代における、天皇から神へ遣わされる御杖代であるかのようである。フタバアオイ(カモアオイとも呼ぶ)は上賀茂神社の御神紋であるが、葵の葉と相奏上し杜若には、そんな思いや役目があったのではないか。そう筆者は浪漫をもって見る杜若に、神々しい存在と思えてならない。

 この杜若の後、6月30日に行われる夏越祓式(なごしはらえしき)では、夕闇迫り、篝火の炎が川面に揺らぐなか、氏子崇敬者より持ち寄られた人形(ひとがた)を投じ、半年間の罪穢を祓い清める。その情景は、百人一首にある藤原家隆卿の歌に詠み込まれ、愈々古都・京都の暑い夏の本番となる。『伊勢物語』にある「八橋」の件は何度も書かせて戴いたので省略とあいなろう。

       風そよぐ ならの小川の夕暮れは みそぎぞ夏のしるしなりけり (藤原家隆)

 

 今宵のBGMは 小椋佳さんの『めまい』

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