『猫のしっぽ カエルの手』 Vol 10~Vol 11 京都・大原 ベニシアの手づくり暮らし

 

 

 

 

 

          『猫のしっぽ カエルの手』   Vol 10~Vol 11

           京都・大原 ベニシアの手づくり暮らし

 

 

              Vol 10  もてなしの心

 

  山に囲まれた京都・大原。谷底を這うように流れる高野川。梅雨時、山から集った水は雨の匂いとともに様々な恵みをもたらす。イギリスから日本に来て37年、ベニシアさんは四季の移り変わりを楽しみながら暮らしている。「うわぁ凄い!」と歓声をあげたベニシアさんの目の先で見つけたのは綺麗な水の傍で育つと言われる野生のクレソン。今を盛りとばかりに群生している。宝の山にベニシアさんはちょっと興奮気味。摘み取らせてもらうことに、「このくらいあったら毎日クレソン・スープを作らないと」と。別名オランダガラシ(油菜科)と呼ばれるクレソン。明治時代食用として入ってきたものが、今では日本各地に自生している。13年前、大原に移り住む前に手に入れた築100年を越す古民家。家を囲むようにある40坪の庭はベニシアさんが7年掛かりで作り上げた。梅雨の晴れ間、庭の花が次々と咲き、実をつける。日々丹念に世話をするベニシアさんにとって何よりのご褒美!二ヶ月前テラスの前に植えたホップ、今では二階の窓に達するまで成長した。これからの季節、ホップが強い陽射しをやわらげてくれるこの場所は、ベニシアさんのお気に入りの場所になる。テラスの横、玄関先の花瓶に花を活ける。そんな時には切花を買うこともあるベニシアさん。でもそういう時、庭に咲く花を添えてひと手間を加える。剪定を兼ねて紫陽花を選んだ。日本に来て活け花を覚えたベニシアさん、花で人を迎えるその心に共感している。活け花を外に飾ると、陽の光を浴びて一層華やかに見える。「皆が見える玄関のこの場所はいい場所」と言いながら、切花に庭の花を加えると途端にベニシア流の活け花になった。

 

 

 

              <Venetia’s Gardening Diary>

 「カラリとした天気が3日ほど続きました。庭のドクダミを摘んで乾燥させる時間です。ドクダミは何にでも効く薬草として何百年もの間、日本の人々を守り、治療してきました。わたしがドクダミを摘んでいると、通りすがりのお婆さんが笑いかけてくれました。“わたしも昔はドクダミを摘んだものよ。色んな病気に効くからね” わたしも笑顔で頷きながら、時間を超越した暮らし方、そして癒しの方法に出会った幸運を実感しました。ドクダミは十薬(じゅうやく)と呼ばれ、解毒や高血圧予防など、様々な効能があると言われています」

 

           <Venetia’s Herb Recipe> (クレソン・スープ)

 クレソンとじゃが芋と林檎の美味しいスープを作ります。先ずじゃが芋の皮を剥く。クレソンの中に入れると更に抵抗力が高くなる力があります。後、鉄分がいっぱい入っているからストレスにもいいし、林檎の甘さと、クレソンのちょっと苦いところがちょうどよく合います。じゃが芋と林檎は皮を剥き薄切りにしておく。バターと油をひいた鍋にじゃが芋を入れ、しんなりするまで炒めます。その鍋に、チキンスープを加え、沸騰させます。更に林檎を加え、15分ぐらいどっちも柔らかくなるまで茹でます。それにクレソン(150g)は3分ぐらいでいい。クレソンは硬い芯を除いてから加えます。煮上がったら、ミキサーに掛け、ペースト状にしてから、塩・胡椒で味を調えます。でも最後の味の決め手はやっぱり自分の舌。野生のクレソン・スープ、これからの季節は冷たくしても美味しく戴けます~~。実はベニシアさん、活け花に料理に張り切っているのには訳がある。今日は親しい友人が訪ねて来るのだ。心を籠めたおもてなしに欠かせないのが庭のハーブたち。「ナスタチウムは食べてもいいね」と言いながらエデブルフラワーと言う食べられる花が幾つもあり、食卓に彩りを添えてくれる。ビオラも食べられる。200種類を超えるハーブの中から、今日の料理に合った花を摘む。これもベニシアさんの楽しみの一つだ。「これボリジも食べられるの。で、ボリジの葉っぱはちっちゃいうちだったら食べられる。フェンネル!フェンネルは今日お魚も出そうと思ってるから、魚の飾りに!すんごいいい匂い!!」 エデブルフラワーは、ベニシアさんが子供の頃、地中海を旅した時に覚えたもの。それ以来地中海サラダと命名している。そしてフェンネルは匂い消しとしてマヨネーズソース掛けの蒸したサーモンと合わせた。友だちの顔を思い描きながらテーブルセッティング。お皿とナイフ・フォークは手前のラインに揃える(ここがポイントでイギリス流のテーブルマナー)。大切にしているブルーの器。この家にもともと残されていた和食器に合わせて、ベニシアさんがイギリスの食器をコツコツと集めたものだ。「これ、お母さんが教えてくれたナプキンの畳み方は日本の団扇でしょう!これって日本のものですから、お母さん何で知ってたんだろうかなぁ。うふふ、多分一番簡単。色々と出来るよ。でも一番簡単なものはこの団扇だぁ!」とはしゃぐベニシアさん。これで友人を迎える準備が整った。そこへ「今日は!」とやって来たのは、ドイツ出身のミュージシャンで、ウベ・ワルタさんと妻・美都代さん。ウベさんは、ベニシアさんが京都に住み始めた頃からの30年来のお付き合い。ウベさんは先に山里暮らしを始めた先輩でもある。「ホップのグリーンカーテンは夏らしくていい。冬はなくなり、ずっと先まで景色が見えるの。秋に切るのね、それで次の年また出て来るの」、「いいねぇこれ」、ウベさんたちと会話が弾む。そこへ早速出て来たのは作ったばかりの自慢のスープ。早速振る舞う。夫の正さんも加わり、気のおけない仲間たちで、大人のランチパーティ。「美味しい!これって綺麗な水の近くに?」、「ぅんそう!」、「これ美山の裏の川にもいっぱいあるわよ」と美都代さん。「最高!!」、手づくりのおもてなしで一段と話が盛り上がる。ここでウベさんが取り出したのは、何と尺八。実はウベさんはプロの尺八奏者。その魅力に魅せられて遥かドイツからやって来た。日本の文化や自然を愛し、日本人のパートナーと山里で暮らす。共通点の多い二人はお互いを理解する良き親友だ。

 

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           <Venetia’s Friends> (池の音に導かれて)

 大原から凡そ50㌔、今も茅葺屋根が残る山里がある。京都府美山町(南丹市?)。ウベさんはここで民家を借り、奥さんの美都代さんとともに自給自足の暮らしを目指している。自分で食べるものは自分で作りたいと家の前にある畑に、季節に合わせて野菜を育てている。ウベさん、春に植えたホウレン草や玉葱が漸く収穫の時季を迎えていた。美山に暮らして20年あまり。今では野菜を買うことは殆どなくなった。それで今日はちょっと遅い田植え。近所の若い友だちが助っ人としてやって来てくれた。「よかった今日は雨降らなくてなぁ」とウベさん。この田んぼもご近所さんから借りたもの。田植えと知って、皆さんが心配そうに(冷やかし半分か)見に来ている。「いつもお世話になっている人たち。田植えの苗、真っ直ぐって難しい。でも自分で食べたいものを自分で作る。昔からそう思っていた。畑したり田んぼをすると、自分が低くなる。腰は痛いんだけど、何て言うかなぁ、僕の職業に必要なもんですね、よし!!」と、張り切るウベさん。米作りは今年で4年目。凡そ120㌔のお米の収穫が出来ると言う。ドロの中で裸足で田んぼに入り、素手でドロに触れる。でもその姿は少しぎこちない。「美都代~~早いなぁ」、奥さんの美都代さんは奈良の農家育ち、さすがに手際がいい。ウベさんにとって土に触れる暮らしは尺八の音を理解するためにも必要なことだったと言う。「まだ上手くやれないなぁ、真っ直ぐなるには後10年ぐらい掛かって何とかなるかなぁ。ぅでね、ウベと言う字はゲルマン語で“土”と言う意味なんですよ。Wordから現在は土なんです。本当にわたしは土が好きなんです。何処へ行っても、必ず土を拾って、土の臭いを嗅ぐんです。ドイツで尺八を最初に聞いた時、何だろう、これって何処の音?ええええ、ふえぇえ、日本にそんな音があったの?日本人は忙しいのに、そんな時間があったのか不思議に思ったもの、そして実はこの臭いがしたんだねぇ。この臭い。土の臭いがね。ドロが付いた音」、それがドイツで聞いた尺八の音だった。その音色に土の臭いを感じ日本にやって来た。来日後は独学で尺八を習得。今では曲を作り、各地でコンサートを開くまでになった。そして30歳の時、美都代さんと結婚し、36歳でこの美山町に移り住み、3人の子供を育て上げた。ドロの音を理解するため、この山里で暮らすことが必要だったウベさん、身体中で、その臭いに触れて日々生活している。それを支えているのは奥さんの美都代さんだ。ドイツ人でありながら、尺八奏者として生きる夫を優しく見守って来た。「頂きまぁ~~す!」と御飯を手にするウベさんご夫妻は明るく実に朗らか、ご満悦だ。「田植え終わってよかったねぇ。美都代、何でそんなに早いの?田植え!」、笑顔の奥さんが言う。「機械がない時はね、手植えをやってた。昔はね、大体わたしは田舎育ちだから、田舎暮らしに抵抗がないんだけれど、でも逆に田舎暮らしって如何に大変か知ってるんですよ。やっぱりねぇ、色んなことがあるし、だから・・・・・・。で、こんなに奥だったでしょ。もう一番最初に車で京都から来た時、えっまだ着かないのって思ちゃってねぇ。結構ねぇ、これから大変やなぁと思ったけど、ぅん、でももう慣れたからね、静かでええとこですねん、うん」と美都代さんが話してくれた。「まぁ贅沢と思うんですね、うん」と、ウベさんも続く。何故尺八の音色はドロの臭いがするのか、ここでの暮らしがウベさんにその答えを教えてくれた。「畳の臭いも草の臭いもワラの臭いですね。正座して座るんですよ、真っ直ぐにね!すると地面に近い生活をするようになるんです。だから日本人の考え方は地面に近い考え方ですよ。その日本文化の特異なところは、自然中心の文化じゃないですか。地面から沸いて来る、そのことは日本で見つけたんですね」と力強く話すウベさん。日本で生きて行く決意だ。考えてみれば、ベニシアさんだって貴族の家に生まれながら、自分の生き方を求めて日本にやって来たのだった。

 

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          <Venetia’s Essay> (心の声を聞く)

  「子供の頃、お母さんに御伽噺を読んでもらいました。それを聞いて、いつかお城で暮らすことを夢見た人もいるでしょう。素敵な王子様、美しい王女様と出会って、ずっと幸せに暮らしたいと。わたしはお城で生まれましたが、心が満たされることはありませんでした。周りの人たちは本当の幸せを見つけずにいるようでした。“何故生きているのか”、わたしはその答えを知りたかったのです。その答えを探し求めて、わたしはイギリスから旅立ちました。インドで出会った若き師が、自分の内面への道を示してくれました。答えのすべてがわたしの中にあるのだと教えられ、自分の声に耳を傾けたのです。そして日本に辿り着きました。日本に来て、一年が過ぎた頃、ここにずっと暮らすことになるだろうと思いました。自分の故郷のように寛げたのです。笑顔が心の扉を開けてくれることを、わたしはこの国で教えられました」と話すベニシアさん。今では他のどの場所よりも寛ぐ我が家。けれども部屋中に薔薇の香りを漂わせながら、作るポプリはイギリス流。ベニシアさんの故郷は心の中にあるようだ。

 

           <クレソン・スープ>

  材料;クレソン150g  じゃが芋(大2個) 林檎(1個) チキンスープ(800ml) キャノーラ油(小さじ 1) 生クリーム(70ml) 塩・胡椒(適量)

  ① バターと油でじゃが芋を炒め、チキンスープを入れ沸騰させる

  ② ①に林檎を加え15分煮る クレソンを加え 5分煮る

  ③ それらをミキサーに掛け、塩・胡椒してから 生クリームで味を整えて出来上がり!

 

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           Vol 11  雨の日を楽しむ

 

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  大原に不思議な形の霧が現れた。山肌をまるで蛇が這うようにうねる細長い霧。「小野霞(おのがすみ)」と呼ばれるこの霧は年に数回、大雨の翌朝に姿を見せる。畑の赤紫蘇は霧を吸ってそこここに爽やかな香りが立ち込める。梅雨の半ばの7月、今日も雨が降り出した。静かな里に雨音だけが溶けて行く。四季折々様々な表情を見せるベニシアさんの庭、この日は大好きな庭仕事もお休み。家の中で過ごすベニシアさんが先ず最初にしたのが、薪ストーブに火を点けること。「イギリスは夏でもストーブに火を掛ける。雨が多いから、やっぱり湿っぽいからで、薪ストーブを焚いたら、煙が煙突から出て、この辺の部屋の土間に入ってたりして、何か家を守るんじゃないかなぁと思って!」と。築100年の古民家に暮らすベニシアさん。湿気の弱いハーブや古い家具を守るために、熱で空気を乾かす。窓を開けているから、さほど暑さは感じず、返ってサラリとして気持ちいい。天井に干したハーブもいい具合に乾いてきた。ベニシアさん、今日はベイリーフの葉で、夏に向けて、米と小麦の防虫対策。ベイリーフとはローリエのことで、「虫が来ないように夏の間だけしか箱に入れないのね、お米もあるけど」と。取り出しやすいように葉っぱは茎に付けたまま、ヨーロッパでも古くから受け継がれて来た暮らしの知恵だ。続いてなかなか手をつけられなかったスリッパの衣更えに取り掛かる。夏用のスリッパを並べ、冬用は箱に入れて秋までしまっておく。ベニシアさん、ふと思いついて、先ほどのベイリーフとレモンユーカリを使い、新しい虫除けサッシェを作ってみることにした。レモンユーカリを布で包む。初めてのアイデア。虫が来ないように、ゆっくりと家事に専念出来る雨の日、ハーブを使った新しいアイデアに心を弾ませる。ベニシアさんは暮らしに楽しみを見つける達人だ。雨の日の洗濯、いつものように仕上げにワインビネガーを入れる。お酢には部屋干しの嫌な臭いを防ぐ力もある。土間にある釣竿式のこの物干し台は、ベニシアさんのお気に入り。イギリスからわざわざ取り寄せたと言う。これがあれば、雨の日の洗濯だって苦にならない。ロープを引くと、洗濯物はスルスルと上がって行く。それだけで何だか楽しくなる。「明日までに自然に乾くね、こう言う風にしたら人の邪魔にならないし」、そして雨の日が好きとベニシアさんは言う。降り続く雨音が心地いいBGMだ。

 

          <Venetia’s Essay> (梅雨)

 「梅雨は暑い夏が来る前に、天が恵みの雨を降らせる季節です。雨は空気や水の流れを綺麗にします。雨水が小川や湖を満たし、カエルや魚、トンボなど水の中で暮らす生き物たちを喜ばせます。草木も元気に育ち、森や野菜、田んぼの緑も青々と美しく映えます。わたしも時間が出来たので、雨音を聞きながら、部屋でエッセイを書いています。『キューリには太陽を、稲には雨を』」

 「ベニシアさん、今日はぁ、紫蘇ジュースをしに来ました」と、雨上がりを見計らって、摘んだばかりの紫蘇を持って訪ねて来たのは近所に住む池田千代さん(88歳)。イギリスから京都に移り住んだベニシアさんにとって、色々なことを教えてくれる母のような存在だ。

 

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          <Venetia’s Friends> (大原の女たち)

 「すごい葉っぱいっぱいやねぇ」、「よう出来てますんで、葉をよう見て御覧なはれ」。ベニシアさんはこの紫蘇で毎年欠かさず紫蘇ジュースを作る。大原暮らしを始めた頃、夏の暑さにまいっていたベニシアさんに、千代さんが教えてくれた特効薬だ。「今、大原凄い紫蘇多いでしょ、昔からそう?」、「ぅん昔からしてはりますねん。昔からシバ漬けは自分とこで自家製で作らないと出来ないん」、「何歳の時に大原に?お見合いで?」、「勿論お見合いですよん」。昭和16年、滋賀県の大木から嫁いだ千代さん、当時大原の女性たちは大原女(おはらめ)と呼ばれ、里で採れた柴や薪を京の町へ売りに行くのが仕事だった。京都まで山道を15㌔、煮炊きに使う重い柴を担いで歩く大原女の仕事は大変な重労働だったと言う。「頭ねぇ、こうして頭の上へ。今やったら20㌔ぐらいかなぁ、頭に載せて歩かならんしなぁ~~」、「えぇ~こう?」、「20㌔も乗せてるさかいに、こうふらつきますやんか!中心が取れないと」、「「きつかった?」、「きつかったですよ、慣れるまでは」、「それで一週間に何回行くの?」、「毎日ですやん」、「毎日行くの?」、「うん毎日ですやん、雨が降らん限りはなぁ」、「え~~っ!」、「お仕事ですもん」、「だから歩き凄い強いんじゃない、そしたら!」、「今でもねぇ、60過ぎとらんと山へ行くですよ、山椒採りに。わたしが一番歩く。今の若い人は転んで転んでどっしようもない、どう言う訳か知らんけど、ぉほほ!」。

 若い頃から働き者で、芯が強いと言われて来た大原の女たち、毎週日曜日に開かれる朝市では、元大原女たちが、今も現役で働いている。手づくりの野菜や漬物を売る森下政子さん(74歳)は大原女を経験した最後の世代だ。「みんなベッピンさんやでぇ、そうやなぁ大原女はなぁ。大原は水がええのや、皆綺麗な顔して、皆ベッピンさん!わたし除けた他はな、ぇほほほほ!」。大原で生まれ育ち、大原女たちの纏め役をしていたと言う森下さん、今も昔の写真を大切に残してある。「あんたもしはんのやでぇ」、「そうやろ」、元大原女の池田サツさん(86歳)も写真を眺めてしみじみと感慨に耽る。「これまでお婆さんの仲間に入れなかったなぁ(昭和30年代で大原婦人会は終わっている)」、「三人三木で写したんやろなぁ、これは。柴でも大きいなぁ」、「今の柴と違ぉてなぁ」、草鞋を履いて、裾を短く、絣の着物を着た大原女の姿に、働く女たちの、凛とした強さが滲んでいる。「やっぱし大原女、ちゃう?プライドがあったか知れんわぁ」、「ほうやなぁ、姉さん被りをしてな、ここんとこちょっと待ち針で止めてなぁ、綺麗にちゃんと、こうやってからげて、行かなはったよ!」、そう言う森下さんの母・スガさんの(当時37歳)で働く姿の写真があった。「そう大原女は綺麗やったよ」。仕事はきつくてもお洒落と笑顔を忘れないのが大原女の心意気!大原女の歩いた道は、その昔遠く日本海で獲れた鯖を京都まで運ぶ鯖街道と呼ばれていた。大原女たちは、その鯖で、お持たせとして色々な郷土料理を作った。森下さんは当時お得意さまのお土産に、母親から習った鯖寿司をよく持って行ったと言う。「いやぁ見よう見まねで、わたしの覚えてるのは、あまり食べ物がない時分やったから、何でもええ、こう言うモノを持って行ったら喜ばはって!ほしてまぁ、皆よう売りに行かはるけど、今度又買ぉてぇなんて言われると、嬉しさで持って行かりはったかなぁと、今思うたら思いますわぁ」。明るく屈託がない。甘酢に漬け込んだ塩鯖をたっぷりと酢飯と一緒に押し寿司にする。竹の皮に包んだ鯖寿司は、京の町に着く頃には味が馴染んで、最高のお持たせになる。大原女たちの心づくしの里の味だ。

 ベニシアさんに紫蘇を届けてくれた千代さん、90近くになった今も毎朝一人畑仕事に向かう。故郷を離れて、大原に嫁いで68年。大原女として語り尽くせぬ苦労も味わって来た。「働いてるさけ丈夫やと思うねん。返ってはぁ楽すりゃ苦やぁ。それはホラ昔からずぅ~っと続けてるでしょ、そやさかい苦痛にもなりひんし、あのぉ何でっしゃろ、健康のためにもよろしいんでっしゃろなぁ。朝早よぉ起きて、ここに来るん、どんな気持ちがええか、ええ空気でねぇ、よろしいですよぉ」と、千代さんは底抜けに明るい。冬の間に集めた落ち葉を畑の肥料に使う。これも昔から続けて来た野菜作りの知恵。今も千代さんは自宅で食べる野菜を殆ど自分で作る。「わたし仕事すんの好きやもん。ぼさぁ~~っとしてるの嫌だわぁ。一々ぼさっとしてたら、どんなんしんどいですか、働いてるほうがなんぼ楽しいか分からへん。モノ採れたら楽しみですやんか。しんどけりゃ休んだらよろしいやんか、一日明けてねぇ、又明くる日すれば、すればねぇよろしいんやんかぁ。そんなしんどい夢でもねぇ。そらナマクラっちゅうもんやっかぁ」。働くこと、それがいつも千代さんの人生の支えだった。昔も今も、様々な思いを笑顔に変えて、精一杯生きてきた大原の女たち。その姿にベニシアさんはいつも大切なことを教えて貰っている。「人生は楽しく生きんと駄目ですよ」、「そうねぇ損するよね楽しくなかったら」、「あのぉ、一つのモノを苦にして苦にして、わたしも一時、そないした時期がありましたけどねぇ、これは人生、損!と思いました。一時、かぁ~~っとなって誰でも腹立つことがあるけど、その場で止めて、ほして直ぐ忘れること、次のことに集中することですなぁ。ええ、それが一番ええと思いました。そやさけわしに、ストレスなし!あはははは」、「わたしも同じこと思うよね」、「えぇ!」、「同じぃ!」

 

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        <Venetia’s Essay> (苦労が人生を磨く)

 「人生は月のように満ち欠けるもの。良いこともあれば悪いこともある。次に何が待ち受けているのか分かりません。予想もしなかったことが起きたり、愛する人を突然失うこともあるでしょう。ありのままを受け入れる術(すべ)をゆっくり身につけて行くのです。そして運命は偶然ではなく、自ら選び取っているようだと気づくのです。その瞬間を一所懸命に生きることが楽しくしてくれる。心を籠めれば、美しい世界に囲まれていることに気づくでしょう。髪を揺らす風や、赤ちゃんの笑顔、美しい花に止まる蝶のように、幸せは自分の心しだいです」

 

        <Venetia’s Herb Recipe> (紫蘇ジュース)

  今から池田お婆ちゃんが教えてくれた紫蘇ジュースを作ろうと思ってます。大きめの鍋に湯を沸かし、洗った紫蘇の葉を入れ、弱火で煮る。赤紫蘇と青紫蘇、両方入れるのが美味しさの秘訣。大原はちょうど紫蘇に合ってる気候、綺麗な色になるような、霧がいいと皆が言う。大原の霧、わたしも大原の霧が、大~~い好き。何かイギリスを思い出すから。10分くらいで煮えたらクエン酸を入れ、よく混ぜる。綺麗なピンク、マジックみたい、ワインの色みたいに。う~~ん香りがいい。クエン酸が溶けたら、汁をザルで漉す。最後の一滴までしっかり漉すのがポイント。まだある、まだあるって、出る出る教えて貰った時も、まだぁまだぁっもっとぉもっとぉって、まだ出るでしょう!やっぱり自分が作った紫蘇でねぇ、最後の最後まで出さなくっちゃ勿体無いと思う。搾り取った煮汁を鍋に戻し、砂糖を入れて再び火に掛けたら、アクを取りながら、ひと煮たちさせる。そしたらちょっと冷まして、後で保存する瓶を用意する。千代さんが教えてくれた紫蘇ジュース。水やソーダで5倍~6倍に薄めて飲めば、じわじわと元気が沸いて来る。

 夕方又雨が降り出した。ベニシアさん、いつものように振り返って日記をつける。書斎には日々書き綴ってきた日記が40年分ずらりと並んでいる。そしてこんな雨の日には、ふと昔の日記を振り返りたくなる。日本に移り住んだ時のこと、子育ての苦労と歓び。心に残っている言葉などがありありと蘇って来る。ベニシアさんが日記をつけ始めたのは8歳の時、少女時代の日記はイギリスを出た時に無くしてしまった。その分大原ではより細かく、日々の思い出を書き残すようになった。「或る朝起きて、うふふふ!ヘタクソォ~~!!大原に来て思ったのは、ここの家がストーリーがあるのね、入って来てボロボロで、毎日少しずつ誰か手伝って、色んなことがあったから、それを自分の孫にいつか読んで貰おうと思って!書きたいから、何か生きてるぅって言う感じ!を、自分の人生がこうなってる。それが凄く楽しいねぇ。或る意味では一人一人皆主人公じゃないですか、自分の人生の主人公でしょう!一人ずつ主人公。一人ずつ凄い人生をやってますから、一人ずつ自分の人生、どうするかを選べるのね、人生は楽しかったぁって言いたいのね。それだけやねぇ。何か他の物凄い難しい哲学とかないと思うね。一人ずつ何が楽しいか自分で発見してるのね!

 

          <紫蘇ジュース>

   材料;青紫蘇(生葉)200g 赤紫蘇(生葉)100g 水2㍑ 砂糖1㌔ クエン酸25g

  ① 沸騰した湯に洗った紫蘇の葉を入れ 10分煮る

  ② 火を止めて クエン酸を入れ 溶けたら煮汁を漉す

  ③ 煮汁に砂糖を加えて 再び火に掛け アクを取りながら ひと煮たちさせる

   ※ 水やソーダで 5~6倍に薄めて飲む

 

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    ベニシアさんの総合記事 『京都・大原 ベニシアさんの手づくりの四季と暮らし』

 

                    『猫のしっぽ カエルの手』 (Vol 春を呼ぶ水仙)

                    『猫のしっぽ カエルの手』 (Vol 2 朝市の仲間たち)

                    『猫のしっぽ カエルの手』 (Vol 3 春の摘み草 Vol 4 春を祝う Vol 5 陽光に誘われて)

                    『猫のしっぽ カエルの手』 (Vol 6 古き良き友 Vol 7 風薫る庭)

                    『猫のしっぽ カエルの手』 (Vol 8 初夏の里歩き  Vol 9 夏を迎えて)

 

 今日のBGMは TAMさん作曲の『Forever Smile』

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